体幹教育 TAIKAN' Basic Art Education

ART

芸術学部では、専門教育とは別に、表現者としての観察力?思考力?想像力をきたえる学部共通科目を多数用意しています。
代表的な科目は、1年次の基礎教育科目「体幹教育」です。

体幹教育(初年次基礎教育)

芸術学部では、初年次基礎教育を「体幹教育(芸術基礎実習)」と名付け、学科全員の共通授業を行っています。1年間を4期に区切り、「絵画基礎」「工芸基礎」「彫刻基礎」「デザイン基礎」という4つのテーマで芸術とは何かを考えていきます。
「見る?触る?考える」を基本に、想像力を刺激する課題に取り組み、自由な発想で制作する姿勢を身につけます。キャンパス全体を創作の場として、多様な素材を観察し、組み合わせ、芸術を生み出す根源的な喜びを体感する、芸術家としての基本姿勢を身につける科目です。

身につく力

● 「つくる」だけではなく、観察力や思考力、想像力を鍛え、表現の根底にある「考え方」をやしなう。
● 専門領域外の学生とクラスを組み、ユーモアあふれる手法で、絵画?工芸?彫刻?デザインの基礎を学ぶ。

授業内容

絵画基礎(視覚のクリエーション)

創作の基本となる、「対象を観察すること」から、「描くこと?つくること」に展開するための様々な表現手段を試みます。鉛筆や木炭、コンテ、粘土、自作の筆など、多様な画材を使用して、それぞれの特性を楽しみながら絵画的思考の基本を習得。目で見て、手を動かしながら考えることにより、創作活動の第1歩を踏み出します。
課題例:工房内を描く、粘土で風景を描く、筆を作って描く、自己像のコラージュなど

工芸基礎(生活のレクリエーション)

「工芸」という領域は、食器や家具、衣服などの日用品や工芸品を通して、私たちの生活を彩ってきました。そもそも工芸という概念は、生活をより良くしようとする態度でもあります。既存のシステムや価値観に頼り過ぎず、身近にある素材を使って自力でものを作りはじめること。それは高度な技術ではなく、素朴でユーモラスな技術であり、そうした態度や技術こそがこれからの私たちの生活に求められています。工芸基礎では「つくる、つかう、かざる」という3つのキーワードから、土地に根付いた素材や技術による作品制作、食卓や衣服での使用、空間の設えというプロセスを通じて、生活の創造に挑戦します。
課題例:土からつくる、布をつかう、土器の野焼き、場をかざる など

彫刻基礎(対象のトランスフォーメーション)

現代の美術表現は、私たちの身の回りの様々な次元に展開し、その対象となる領域を広げ続けています。彫刻基礎の授業では、「自己の変容」「空間の変容」「概念の変容」「移動の変容」の計4種の課題を行います。課題を通じて、立体制作や展示手法の基礎、空間?素材?発想の可塑性や拡張性、それらの組み合わせによる新たなイメージの創出、発想の広げ方などを、多角的に学んでいきます。

デザイン基礎(表現のバリエーション)

「複製する」「分解する」「組み合わせる」、と言ったキーワードを軸に、様々なメディア(媒体)を使った表現の基礎を学びます。
写真での複製表現に始まり、素材を解体したり組み合わせる版やコラージュでの表現、光や音を用いた映像表現、空間表現などに取り組み、表現の多様さを知ったうえで、制作のプロセスも含め、自分の表現を「デザイン」=「設計」することを考え、学んでゆきます。

指導教員

中野祐介(共通教員/体幹教育担当)

…2003年よりアートユニット「パラモデル」のメンバーとして活動。2017年、芸術学部教員に着任。

僕自身、作家活動を続けてきて思うのは、職人的な専門性はもちろん必要なんですが、発想の視点を最初から柔らかく開いておくことも、とても大事だということ。体幹教育で扱っているのは、そういった創造の土台にあるべきものです。僕はパラモデルという2人組で活動してきましたが、 学生の頃は自分は日本画で、相方はメディアアート系の専攻。だから、同じテーマを考えても2人のアプローチの仕方が全然違い、それが面白みにもなっています。専攻で壁をつくっていたら、今の作家活動は成立しなかっただろうし、領域を横断していくことってすごく重要だと実感しています。

中村裕太(共通教員/体幹教育担当 )

…「民俗と建築にまつわる工芸」という視点から、陶磁器、タイルなどの学術研究と作品制作を行う。2017年、芸術学部教員に着任。

僕が精華大に入学したのは16年前。陶芸専攻でしたが、映像作品をつくったり、巨大なわら半紙に墨絵を描いたりとか、かなり領域横断的なことをしていました。教員として戻って来て、あの頃に通じる自由な雰囲気を感じています。体幹教育というのは、「つくること」と「考えること」のバランスを整える訓練だと思っています。スポーツ選手が「体幹トレーニング」を通して、コンディションのバランスを取るように、ディスカッションや専門外の表現に挑戦することで、ふだん動かしていない思考を使い、作品を制作するためのリズムなりバランスを整えたいと思っています。

宮永 亮(共通教員/体幹教育担当 )

…ビデオカメラでとらえられた実写映像素材を幾重にも重ねた手法を用いて作品制作を行っている。2017年、芸術学部教員に着任。

僕の学生時代にも、体幹教育のように、広く創造性を引き出すようなカリキュラムがあったんですけど、僕自身は結構反発していたんですよ(笑)。自分の興味をより深めるための専門教育を早く受けたいという気持ちがあったんですね。けれど、専門的な仕事も人工知能に置き換わっていくと言われているなかで、専門技術を研ぎ澄ませていくだけでは、これからの時代は多分やっていけない。体幹教育で学ぶような、表現の根底や創造の起点になるような考え方を鍛える必要があります。学生たちには、今すぐ必要性を感じないかもしれないけれど「時間差で効いてくるぞ」と伝えています。